大学の主体性発揮に期待!
政府の教育再生実行会議は「知識偏重、1点刻みの試験からの脱却」を目指し、文科省は大学入試改革の必要性を繰り返し発信し続けてきました。しかしながら、民間英語試験の公平性の問題、記述式問題の採点問題など、強まる批判に打開策を示せず、ついに大学入学共通テストの2本柱は導入見送りとなりました。
導入断念の声明で、萩生田文科大臣は各大学に対して個別の選抜試験で記述式問題の積極的な活用を要請する考えを示しました。近年入試の多様化でAO、推薦入試などで国公立大学でも2次記述試験を課さない選考が増えていることも事実です。最難関の医学部医学科の地域枠推薦などはセンター試験のみで決まり記述試験は免除です。岡山大学でもセンター試験さえも課さない推薦入試があり、志望理由書・小論文など客観的データを根拠としない選考の方がブラックボックスで公平性に欠けるのではないかと思ってしまいます。
あまりメディアでは取り上げられていませんが、当事者意識もなく国に追随した大学側も責任を負うべきでしょう。記述式問題は当初から採点の公平性などが課題とされ、出願先の大学が採点する案も出たが、大学側の反発が強く、40万人以上が受験する進研模試の採点で実績があるベネッセへの委託で決着した経緯があります。民間業者にではなく、自分が志望する大学に答案を採点してもらった方が、受験生の理解を得られるかもしれません。大学側にもより良い入試を実現する意欲と矜持が問われます。
文科省によると2015年度実施の国立大2次試験で記述式問題を課した大学は約4割にとどまり、工業単科大の室蘭工業大学などは「当校には国語の問題作成のノウハウがない」と言います。実は、私立の雄、慶応大学の入試にも国語がありません。表立っては言ってませんが、国文科の教員不足で記述国語の採点ができないのが理由だそうです。小論文は他学部の教員でも採点できますからね。
これまでも英語民間試験、記述式問題導入に関する論点は山積しましたが、個々の大学も国立大学協会も「国の方針が固まっていない」と正面からの議論を避け続けてきました。受け身の象徴は英語民間試験への対応で、一旦は国立大学82校中78校が活用を表明しましたが、政府が見送りを決めた途端、大半がとりやめたのです。民間4技能試験活用でセンター英語みなし満点方針を貫く広島大学などを除き、殆どの国立大は主体性なしですね。
国内外で大学間競争が激しさを増す中、どんな教育を目指しそれにふさわしい学生をどうやって集めるのか。そこでしのぎを削るべきなのに、寄らば大樹の陰の横並びではまともな戦略を持てるはずもなく、国の言いなりで人材は育ちません。今こそ大学は主体性を取り戻すべきではないでしょうか。