9月入学の議論に思うこと
政府は新型コロナウイルスによる学校休校を受け検討した2021年度からの9月入学の導入を見送る方針を固めたようです。自民党のワーキングチームは緊急事態宣言中の授業の遅れを取り戻す方策として検討したが、保育の期間にしわ寄せがいくなど課題が多く、教育現場を混乱させかねないと判断した。9月入学については、欧米と入学時期がそろい留学生や研究者の行き来が増えてグローバル化が進むなどメリットばかりが取り上げられ、小池東京都知事など全国の知事の6割が賛成していたようですが、デメリットや莫大なコストも生じます。
2021年4月の小学校入学を9月にずらす場合、義務教育のスタートが7歳5ヵ月からとなる子供が出て世界的にも異例の遅さとなる。今の小中高校生のうち9月1日以前に生まれた子は16歳で中学を、19歳で高校を卒業して大学受験は1浪状態となる。また、新小学生には9月までに6歳になる子も含まれ、今でさえ早生まれとの発達の差が生じているのに最大17ヵ月の年齢差に不公平感が拡がらないのか懸念が残る。
また、私立学校などでは受験料や授業料収入が後ろ倒しになるため、救済策として政府が補助金を出し、移行期の減収分を補う必要が出てくる。さらに、進学や就職の時期が5ヵ月遅くなる。9月入学については東大が11年に本格的に検討したが、公務員試験などを含む就職試験、採用活動など社会全般のスケジュール調整が要されるため、経済界と足並みがそろわず導入には至らなかった経緯がある。夏のインターハイや高校野球など学生を取り巻く幅広い行事にも影響が及ぶことになる。
G20諸国の中でも4月入学は日本とインドぐらいで、大半の主要国は秋入学なので海外留学はし易くなるだろう。近年首都圏などの都市部の高校で海外経験のない高校生が直接海外有名大へ進学するケースが増えてきている。「27人中ゼロ」これはベネッセが主催する海外大学進学専門塾「ルートH」で海外大と東大の両方に受かったうち、東大に進学した人数。筑波大附属駒場からハーバード、エール大、MITへ、灘からハーバード、プリンストン大、MITへと、東大理1・理2とダブル合格して東大に半期だけ在籍し、東大を中途退学して9月に海外名門大に入学する生徒が毎年何人かいるという。
今回、9月入学が新型コロナウイルス感染拡大による全国的な休校で、大幅に不足する授業時間を確保する方策として浮上してきたが、推進派がメリットとするグローバル化の進展や教育制度を世界標準に合わせる好機などは、とって付けた感が拭えない。長期的には賛成でも、短期的には導入に慎重という意見も教育界に少なくない。学校に行けていない子供たちの学ぶ権利にも配慮しながら、まずは学校の再開後失われた学習時間をいかに挽回するかに力を注ぐべきではないだろうか。