国公立大学推薦に生き残りを賭ける地域2番手校
特に地方では地元国立大を始めとする国公立大学への合格者数が高校の評価を決める場合が多い。大学受験の頂点に立つ東大推薦入試でも東北の秋田・八戸・山形東、北陸の金沢泉丘・藤島高校など各県のトップ県立高校が複数名の合格者を出すなど、文科省の高・大接続の方針に沿って年々定員枠が増える学校型推薦・総合型入試に上手く対応できた高校は安定した合格実績を維持できている。
岡山県でも岡山5校の一つである岡山芳泉と倉敷の玉島高校は浪人を恐れず第1志望にこだわった進路指導に徹する岡山朝日、倉敷青陵の各学区トップ校とは一味違った受験戦略で合格者数を増やしている。トップ校が浪人リスクを辞さず前期入試での真向勝負にこだわる分、漁夫の利を得ていると言ってよい。例として2校の合格実績を分析すると、
★岡山芳泉高校(2023年)
国公立大学:219名(内推薦・総合型105名)
岡山大学現役合格者数:80名(4年連続全国1位)
国公立大学現役合格率:77%(公立高校全国トップクラス)
★玉島高校(2022年)
国立大学:48名(島根大医学部医学科1名・九州大1名・岡山大9名)
公立大学:52名
岡山芳泉は国公立大学合格者数の実に48%を学校推薦・総合型入試で占め、地元岡山大に4年連続全国1位の合格者数を誇る。東大・京大を始めとする旧帝大にも約2割が名古屋大など推薦入試をフル活用して28名の合格者数を出しており、直接の比較にならないかもしれないが併設型中高一貫校の岡山操山と遜色のない合格者数だ。それに比べて公立校トップの岡山朝日の国公立大現役合格率は6割以下と低い。岡山大は昨年度から廃止した後期の定員を総合型選抜枠に振り替えたので今年も戦略通りにいけば、岡山芳泉は岡大合格者数トップを維持できるだろう。
倉敷4校よりも下位とされる玉島高校は文科省からスーパーサイエンス校(SSH)の認定を受け理数科を設置、科学的な探求教育を行うことで周辺高校との差別化を図っている(22年度は島根大医学科に合格)。2022年は約100名の国公立大学合格者が出したが、その過半数は岡山県立大(13名)や新見公立大(4名)などの「共通テストを課さない」新設公立大の推薦・総合型入試での合格者で学力的に岡山芳泉よりレベルが落ちることは否めないが合格者の数は稼いでいる。公立大は中期・後期入試が多く、国立大の前期に上位の受験生が集中するため合格し易い(京都府立医大、大阪公立大、福島・和歌山県立医大など医学科は例外。京医・阪医・神医落ちが後期復活を目指す奈良県立医大は岡山医より難関)世間は「国公立大学合格者数」で評価するので賢い戦略と言えるだろう。
今や公立高校といえども少子化の進む地方では、クラス減、定員割れによる全員入学など学校の存在意義が問われる岐路に立たされており、各地域の2番手高校は世の中に必要とされる特色を出して生き残りのために色々苦心しているようだ。理系最難関の国公立医学科の推薦型などでは学力を担保するため「共通テストを課す」入試が殆どを占め、地域の上位層が入学してこない2番手校は当然不利な戦いを強いられるが、何とかやり繰りして現役合格させている努力がうかがえる。
公立トップ校の生徒を5年間教えてきた経験から申し上げるが、上位の進学校ほど精神論による進路指導が強いと感じる。東大一辺倒の伝統校など京大志望者にも東大模試を受験させ、国立医学科志望者には「性格が医者に向いてない。東大理系はどうだ?」とあらゆる手で東大へ誘導してきた。VUCAといわれる先が予測困難な時代、人生の1年は誰にとっても貴重だ。当塾ではデータを基にした合格可能性という客観的な視点で受験戦略をアドバイスさせてもらっている。学校も塾も皆が精神論だと偏った方向に行きがちだ。特に医学科など難関大学を目指す生徒は合格確率を理解しており、最後は現実的な選択をして現役合格していった。週末の早朝、放課後の夜遅くまで執念で通い続けてくれる生徒さん達は厳しい競争の現実を直視し、自らの努力で乗り超えていってくれると信じている。