2025年以降の国公立医学科の入試変更点
いよいよ12年ぶりの新学習指導要領に基づく大学入学共通テスト2.0が来年1月に実施される。昨年の入試では、メジャーな入試改革を目前にしながら各大学の定員・個別試験などの変更も多かった。今年も再来年以降も含めた2年前公告が相次いでいる。8月時点で判明している国公立医学科の主な変更点を影響のありそうな順に取り上げてみたい。
◎募集人数の変更
★旭川医:北海道特別選抜枠の増員、後期の廃止、理科の追加
2025年度度は全国枠だった国際医療人特別選抜5名を廃止、道北・道東特別選抜枠推薦を10名から7名に3名減員することによって 北海道特別選抜枠を32名から40名へ8名増員する。これで更に北海道外の受験生が旭川医に合格しにくくなる。2026年度は後期8名を廃止、2027年度から理科2科目を追加して、英・数のみ2科目入試の国立大は秋田、弘前、徳島、島根の4医学科だけとなる。
★福島県医:県外枠推薦15名を20名に増員
前期の地域枠30名を25名に減員した分、推薦県外枠を20名まで5名増員する。東北の医師不足に加えて震災の影響が残る福島県の地域医療に貢献しようとする県外生の意欲の高さが評価されたのだろう。福島県医の前期地域枠は一般枠と併願できるのがメリットで東北新幹線が停車する立地の良さもあって医科歯科、千葉、横市などの難関国公立医学科しかない関東の受験生の進学先として人気だ。
★佐賀医:後期定員を6名減員(翌年廃止)、地域枠推薦を6名増員
国公立医学科で佐賀医の地域枠推薦枠は岡山医と同じ4名と全国最少レベルだったが、今年度は後期10名を4名に減員して来年度に後期入試を廃止、6名を佐賀県推薦特別選抜枠に回した。毎年廃止・縮小が相次ぐ国立医学科後期入試で佐賀医の10名(23年度に朝日女子が復活)は貴重だっただけに残念だ。
★長崎医:前期定員を10名減員、地域枠推薦を10名増員
2026年度から長崎医は前期定員を76名から66名へ減員して学校推薦型長崎医療枠25名へ10名増員すると予告した。志願倍率倍増(7.7倍)の競争激化で地元有力校の青雲中高が合格者数を前年27名から13名まで減らした影響か?大学側の裁量が効く前期の面接点も60点から150点(全配点の11%)へ上げて地元生を守りたい長崎医の強い意思を感じる。
◎入試制度の変更
★弘前医:2次総合問題を廃止、英語・数学の2科目型へ回帰
元々弘前医は旭川医・秋田医・徳島医・島根医と同じく2次で理科を課さない英・数入試だったが、生命科学の英語論文で計算力や考察力を測るユニークな総合問題も4年目で廃止となった。尖がった入試制度は長く続かない運命だ。入試科目の変更に伴い67%と徳島医の69%に続き高かった弘前医の共テ比率は54%まで下がり、以前のような共テ逃げ切り作戦は難しくなりそうだ。
★名古屋医:2次試験の国語を廃止
東大理3、京都医の医学科2トップと並び、2次試験に国語(現代文のみ)が課されていた名古屋医はついに国語を廃止し、英・数・理の典型的な3教科入試に変わる。国語が廃止された分2次英語の配点が倍増され、 情報Iも加えて共テ:2次=950:1800点と、東北医とぶ合計2750点もの大量配点で争われる。全国で最も配点の多い山梨医の3300点、金沢医の3050点に次ぐ高得点勝負となる。
★札幌医:面接点の倍増
札幌医大は北海道立の公立大ということもあって前期定員75名の内55名が地域枠という全国最強レベルの地元生重視の医学科だが、今回面接点を100点(全体の7%)から200点(同13%)に倍増させた。大学側の裁量点が大きくなり北海道に縁がある人以外は道外生が合格するのは更に厳しくなりそうだ。
★秋田医:R:L配点比率の変更
秋田医は共通テスト英語のR:Lの配点比率が4:1とリーディング重視だったが、北大・旭川医・弘前医・山形医と同じ1:1のリスニング重視配点に合わせてきて東北大以北の北日本の国立大学は全てリスニング重視となった。秋田医は面接配点が全体の2割と全国一で地元公立トップの秋田高校が今春26名も合格させており東北地方に地縁がない県外生は面接で不利かもしれない。
★岡山医:英語検定試験みなし満点の変更
岡山大は2024年度から英語検定試験C1取得者の共テ英語+2次英語みなし満点を導入した。医学科では1600点中英語500点(31%)が満点となり全国から定員の半数弱のC1取得者が集まり約2割の16名が合格した。通常なら受けてこない都立国際、芦屋国際中教、立命館宇治などの帰国生が多い高校が合格者を出し、岡大側も有利過ぎるのがわかったのか?慌てて来年度入試から共テ英語のみ満点に縮小した。高2生が英検1級で当塾初のC1取得したが共テ英語みなし満点のみに変更され無念だ。わずか2年で新入試制度を止めるなど前代未聞で多くの受験生を振り回した迷走に対して岡山大には反省を促したい。
国公立医学科で2次でも国語を課していた名古屋医が昨年の山形医に続いて国語を廃止し典型的な英・数・理3科目入試へ変更、国医最後の砦で共テを失敗した人が殺到していた弘前医の総合問題も短命に終わった。尖った入試が普通の入試に回帰していく流れだ。佐賀医の減員に続き旭川医も後期を廃止し国公立医学科の後期入試は旧六医大レベルで共テA判定出てないと復活困難な難易度に上がるだろう。旭川医、佐賀医、長崎医は揃って全国枠を減員し地域枠を増やした。地域枠を4名まで減らした岡山医を除いて、多くの地方国立医学科は地元に残ってくれる医師を確保するため地域枠での囲い込みに必死だ。
大学入学共通テストの導入、学習指導要領改訂による入試科目の組み換えなど目まぐるしく変化しており、まさに大学入試は「情報戦」だと実感する。特に理系上位層がしのぎを削る医学科入試では変化にいかに対応できるかが合否を左右することが多い。東大も25年度入試から共通テストの足切り倍率を引き下げ絞り込みを強化する。最難関の理科3類を除く文科から理科の5類で計1000名以上2次試験に進む人数を1000名近く減らす予定だ。東大はその意図をより深く各受験者の答案と向き合うためとするが、2次試験の権利を勝ち取るために配点の2割しかない共通テストの重要度が増す。変化に強い塾だと自負しているが今後も得意のデータ分析力を活かし塾生に最新情報を伝えていきたい。