国公立医学科は本当に入り易くなっているのか?
ある経済雑誌が医学部の競争倍率が2010年代をピークに徐々に下がり始めており、今後もさらに易化が進み医師になりやすい時代が到来する「受験が易しくなり大チャンス」と特集を組んでいた。
高額な授業料で有名な医専予備校の業界では国公立も私立医大も一括りにして医学部として合格者数をアピールしているが、医学部には看護学など医学科以外の学科も含まれる。そもそも学力以外の高額な学費を支払えるか否かの経済力がものをいう私立医大と一括りにして合格者数をアピールするのはいかがか?
大学入学共通テスト初年度の21年、国公立大医学科の志願者数は微増となったが、予備校関係者は「私立医大は易化する」と口をそろえる。最新の河合塾偏差値でも私立最低ランク(学費は反比例して最高額)の川崎医大がボーダー偏差値60まで下落し、久留米大医学科や福岡大医学科(同65)との差が広がっていた。
日本の少子化が急激に進む中で、国公立大学医学部の志願者横ばいということは理系の中で医師を目指す受験生の割合は増えていることになる。確かに志願倍率は5倍台から4倍前後に下がってきてきているが、15年前と比べると地域枠の占める割合が2%から18%にまで増えており、一般枠では国公立医学科に入り易くなったとは言えない状況である。
「医学部医学科に入り易くなっている」という意見の根拠としては、理系最上位層の情報系学部への流出が進んでいることが挙げられる。最難関の東大理3などで国際数学・物理オリンピックなどの受賞者が「自分の学力を証明する」ために目指していた優秀層が去り始めたということは、本当に医師になりたい上位医学科志望者層には朗報となるだろう。
2008年のリーマン・ショック時にも見られたが、経済の先行きが不透明になると就職率の高い理系大学への志望が集まる。特にコロナ禍で顕著だったのは医療系学部の人気アップだ。9月の第1回駿台ベネッセ共テ模試での志願状況を見ても、国公立医学科は前年比101で、少子化による受験者減を考えると志望者は増加基調に転じている。
理工系のエリート男子の中にはグーグルなど若くして高給を期待できる世界的IT企業やベンチャー企業の起業などを目指す人が増えているかもしれないが、現高3生の全国模試の得点分布を見ても、理系上位層の医学科合格競争の熾烈さは変わっておらず、地方での医療系の根強い人気は続くと思われる。
今春、岡山中高受験界のトップに君臨する国立大学附属高の現役での国公立医学科前期日程合格者は1ケタの9名(定員7名しかない山口医後期での2名復活で底力を見せた)まで落ち込み、私立中高一貫校の現役合格者は5名に留まった。とても国公立大学医学科が入り易くなったとは思えない結果である。増員された定員は地域枠やAO枠がほとんどで一般枠は定員が減らされている医学科が多いことも原因であろう。