実用重視で迷走する国語教育!?
高校の国語は新学習指導要領の下で科目が大きく再編され、これまで高1生の必修科目だった「国語総合」が「現代の国語」「言語文化」の2つに分割された。特徴的なのは従来の現代文のうち論説文は現代の国語に、小説など文学作品は古文・漢文と共に言語文化に振り分けられたことだ。現代の国語に新たに加わったのが「実用的な文章」だ。会議の記録、報告・企画書、法令などを扱う。指導要領の解説によれば「実社会に必要な国語の知識や技能」を身に付けるのがその目標だ。
11月大学入試センターは2025年1月に実施される大学入学共通テストの試作問題を発表した。新たに追加される「情報I」や「歴史総合」などと合わせて、国語で新たに追加される大問のサンプルも公表された。中身は大問が2つ。1つがSDGsに関する報告書を統計など6つの資料と照合して読解する問題。次が「日本語の言葉遣い」のレボートについて、3つの資料を読み穴埋めなどをする問題だ。実際の共通テストではこの試作問題の大問1つに従来の論説文、小説、古文、漢文を加えた大問5つを90分で解くので新設の実用文にかける時間は20分もとれない。
ある都立進学校の国語科教員は試作問題を見て「難問に見えるが、うちの生徒なら解けるだろう。ただ問われるのはデータ拾いの速さで、これを国語の試験に入れる必要はあるのだろうか?」「文科省が持っていきたい方向はこっちなんだろうな。訓練をして生徒が点を取れるようにするしかない」と諦め顔で語る。
弊害としては、高1で必修2単位の「言語文化」の中に小説などの近代文学、古文、漢文の3つが押し込めらえた結果、小説を教えるのが後回しになってしまうことだ。なお、小説をめぐる変化は高1に限らない。高2・高3は選択科目として4単位の「論理国語」「文学国語」「古典探究」の中から科目選択するが、入試を意識してか?多くの高校で論理国語と古典探究の2つが選択されている。そうなると高2以降では文学国語を扱う授業がなくなってしまう。
一方、大学毎に独自に課す2次試験でも静かに進むのが国語で古文・漢文を出題しない風潮だ。駿台進学情報事業部は「元々東大など難関国立大を除き2次試験で漢文が出題されるのは希だった。それが今、古文も無くして現代文のみで受験できる大学が増えている」と指摘する。ある中堅私立大学の教員は「古典を無くして入試の難易度を下げないと受験生が集まらない」と明かす。
実用に偏った国語教育の問題点は「文学軽視」といった単純なものではない「国は国語科にAI(人工知能)の発達など予測困難で複雑な社会に主体的に関われる力の育成を求めるが、その力が本当に培える教育とは何か今一度問われるべきではないだろうか?」とある国語教育に詳しい私大教授は一連の国語教育をめぐる変化についてこう指摘する。実用的な力の向上を目指す国の方針により、高校の国語教育が極端な方向へ向かおうとしている。